サン・テステフ (Saint Estephe, Bordeaux) のワイン
第二級格付けのコス・デストゥルネルやモンローズ、第三級格付けのカロン・セギュールのみならず、地味ながら強い個性を発揮する優れた生産者が集まる!!
冷涼な風、土壌、格付け生産者
大西洋から吹き込む冷涼な風により、気温がボルドー市内より低く、酸によって引き締まった堅牢な体躯の長期熟成に向くワインが生産される銘醸地です。
土壌は変化に富み、地区の東側にある河岸近くに広がる「砂利混じりの小丘」 (Croupes)、所々に露頭となって現れる「サン・テステフの石灰岩」 (the Calcaire de St-Estephe) として有名な石灰岩の岩盤、地区の西側と北側に多く見られる粘土の混ざった堆積層に大別され、砂利・粘土・石灰岩が組み合わさって、サン・テンステフの土壌を構成しています。
土壌の違いによって、栽培されるぶどう品種も異なり、ワインのスタイルに個性を付与しています。
ぶどう品種は、依然としてカベルネ・ソーヴィニヨンが主力ですが、冷たい土壌が優勢であることから、メルローも栽培面積を増やし、全栽培面積 1,230 ha の 40 % を占めるまでになり、土壌とぶどうとの適合性に応じてぶどう品種が選定されています。
サン・テステフには、5 つしか格付けシャトーが無く、格付けシャトーのワイン生産量は、生産量の 20 % (年間 870 万本) にとどまります。
全生産量中、最大の 54 % を占めているのがクリュ・ブルジョワ (Cru-Bourgeois) で、17 % が協同組合です。
サン・テステフは、メドックにある 4 つの主要産地の中では、地味な印象を持つ産地ですが、第一級格付けに比肩するメドック第二級格付けのコス・デストゥルネル (Cos d’Estournel) とモンローズ (Montrose) を擁し、第三級格付けのカロン・セギュール (Calon Segur) も世界的な名声を誇る傑出したシャトーです。
格付け生産者のみならず、クリュ・ブルジョワの生産者も粒ぞろいで、生産されるワインの酒質は高水準であり、「地味ながらも強い個性を主張する」 (ワイナート誌) 産地と言えます。
長期熟成に向く壮健なワイン
サン・テステフのワインは、酒質が硬く、厳格な味わいが特徴的でしたが、カベルネ・ソーヴィニヨンの比率を 60% 程度から 70 ~ 75% 程度へと徐々に上げているコス・デストゥルネルを例外とすれば、メルローの栽培面積が増え、現代的な醸造技術の導入により、滑らかな口当たりになってきています。
それでも、他の産地に比べると、酒躯は圧倒的に豊かでしっかりとし、壮健で長期熟成に適する堅牢なワインが生産されています。
例えば、「サン・テステフは、メルローの比率が高め。それならばボディの柔らかなワインが多そうだが、各シャトーの造りがそうさせるのか、反対にやや剛直なタイプが少なくない。」 (ワイナート誌) と言われています。
また、サン・テステフのワインは、「アフターに甘苦いスパイシーさを残すのも、サン・テステフのワインには良く見られる傾向だ。」 (ワイナート誌) と言われています。
メドックの他のアペラシオンより砂利の層が薄く、その下に、「ワインに重厚さや土のようなニュアンス、スパイシーな風味をもたらす粘土が多くある」 (フランス AOC ワイン辞典) ためと考えられています。
砂利と粘土に加え、サン・テステフの所々に見られる「サン・テステフの石灰岩」が露出した土壌は、石灰岩が酸味と香りに複雑さをもたらすと言われています。
サン・テステフにて、頑丈な骨格と腰がありながらフィネスと複雑性を備え、スパイシーなアフターを持つワインが生み出される背景には、砂利・粘土・石灰岩が組み合わさった土壌があると言えます。
土壌に合ったぶどう品種の選定
サン・テステフの土壌は、河岸近くに広がる「砂利の多い小丘」、アペラシオンの所々に見られる「石灰岩の岩盤が所々露出した砂利土壌」、西部・北部に多い「砂利と粘土の混ざる堆積層」に分かれています。
スーパー・セカンドの筆頭と呼ばれるコス・デストゥルネルは、石灰岩の岩盤に堆積した砂利層からなる小高い丘にあり、純粋で優美、堅牢で深みある30年以上熟成可能なワインを生み出しています。
サン・テステフ南端にあるコス・デストゥルネルは、ポイヤック (Pauillac) 北端のラフィット・ロートシルト (Lafite Rotschild) から向かうには、有名なメドック・マラソン最大の難所と言われる急坂を上ったところにあります。
コス・デストゥルネルの丘は、氷河期に堆積した砂利で覆われ、極めて水はけに優れています。
用いられるぶどう品種は、メドックにしてはメルローの比率が高く、「メドックでは最も高い部類に入るメルローのブレンド比率が、コスの最近のヴィンテージに目立つ肉付きの良い、リッチな舌触りの特徴をワインにもたらしている。偉大なまでの純粋さと優美さがあり、超絶的な口当たりと舌触りと、余韻の長いリッチなフィニッシュを持つワインである。純粋さと古典らしさが、この超一流のワインの顕著な特徴である。」 (R. パーカー氏) と絶賛されています。
同じく、スーパー・セカンドのモンローズは、河岸近くの砂利層に鉄分の多い砂と泥灰土の粘土が混ざるジロンド川 (Gironde) を臨む小丘の高台にあります。
南東に向く緩やかな斜面は、ぶどう果実の成熟に理想的であり、深い色と芳醇で力強い酒躯の長期熟成ワインを生み出します。
モンローズは、「『サン・テステフのラトゥール』と呼ばれ、巨大で、濃厚でパワフルなワインを造る。ワインはとてつもなくリッチで、とろりとした舌触りを持つ、フルボディのワインである。味わってみると、巨大な存在感があり、フィニッシュは 60 秒を超す。巨大な、まるまると太った、畏敬の念を抱かせるほど素質のあるワイン」 (R. パーカー氏) と称賛されています。
また、カロン・セギュールは、サン・テステフの北東部にあり、ぶどう畑は低い位置にあります。
砂利と粘土が混ざる土壌と石灰岩の岩盤が露出した土壌に分かれ、フィネスと力強さを併せ持つ、骨格が感動的なほどしっかりし、触感と芳香が純粋なワインを生み出しています。
18 世紀にカロン・セギュールを所有していたセギュール侯爵は、ラフィット・ロートシルトとラトゥールの持ち主でもありましたが、その功績は、「われ、ラフィットとラトゥールをつくりしが、わが心、カロンにあり」という言葉と共に現代までも語り継がれています。
カロン・セギュールのボトルのラベルに描かれているハートのマークは、この時の“心”を表したものです。
どれも瓶熟に適したワインで、背骨がしっかりしているが触感は純粋できめ細かく、熟成を経るにつれ洗練されていくワインです。
生産されるワインについて、総責任者のヴィンセント・ミレー (Vincent Millet) は、「サン・テステフは、噛めるほどのタンニンということで有名だったが、それが私は気に入らなかった。だから絹のようなきめの細かいタンニンを目指したんだ。」と自信ありげに語っています。
傑出した生産者一覧
・コス・デストゥルネル (Cos d’Estournel)
「1982 年以降、シャトー・コス・デストゥルネルは、ミスを犯したことがない。1999 年はあまり恵まれたヴィンテージではなかったが、このワインは、それをものともせず、メドックの最高峰の一つとなった。そのワインは、全般的にフルボディで、その精妙さとしなやかな物腰は、サン・テステフというよりは、ポイヤックに近いものがあり、他のワインがうらやむほどの、とろっとした触感がある。」
・モンローズ (Montrose)
「ラトゥールと同様に、モンローズは、深い色、しっかりとした力強い酒躯、若い時は厳しいが、驚くほど良く熟成するワインによって評価を高めてきた。1986 年以来、堅固なモンローズ・スタイルは復活し、さらに最も恵まれた年には、円熟味と芳醇さも付け加えている。新体制が実現しようとしていることは、この水準での完熟を維持し続けること、そして触感の純粋さと質、さらには現代という時代にふさわしいタンニンである。」
・カロン・セギュール (Calon Segur)
「シャトー・カロン・セギュールは、メドックでも 1、2 を争う領主地であり、その起源は中世まで遡る。しかし、ここは古いだけのシャトーではない。新世紀に入ってからのヴィンテージはどれも傑出している。2006 年は、このシャトーの新時代の幕開けを飾るヴィンテージで、エレガントさと精妙さの絶妙な絡み合いの中に伝統的な凝縮感としっかりとした骨格が加わった逸品である。」