サン・テミリオン (Saint-Emilion, Bordeaux)
魅力的な生産者が競う銘醸地
サン・テミリオンのぶどう畑は、中世の面影が残るサン・テミリオン村を中心に、9 つの村に跨がり、総面積 5,500ha の広大なぶどう畑が広がっています。
また、1999年に全地域がユネスコの世界遺産に登録され、美しい景観が広がっています。
サン・テミリオンは、栽培面積の60%を占めるメルローが主力品種であり、カベルネ・フランがパートナーとして、ワインに芳醇な果実味とアロマの精密さや新鮮さを添えています。
また、砂利土壌のサン・テミリオン「北西部」では、カベルネ・ソーヴィニヨンも栽培されていますが、カベルネ・ソーヴィニヨンの比率は、サン・テミリオンにおけるぶどう栽培面積の 10 % にとどまります。
サン・テミリオンは、メルロー主体の似たようなワインを思い浮かべるかもしれませんが、実際には、土壌の違いをはじめとして、ブレンド中のカベルネ・フラン比率の違い、ワイン造りの手法の違いなどから、かなりスタイルの多様性が見られます。
また、ボルドーにおけるワイン造りの流行は、サン・テミリオンのワイン造りに大きな影響を及ぼしました。
1990 年代には、「ガレージスト」と呼ばれるこだわり抜いた小規模生産者たちが現れ、ボルドーのぶどう栽培と醸造の最先端を行き、より濃厚な色の、より熟れた、より豊かなスタイルのワインを創造しました。
そこには、行き過ぎもあり、過熟、過抽出、過剰なオークの使用などが指摘されていますが、2000 年代に入って幾分収まりました。
しかしながら、依然として、より「古典的」なサン・テミリオンのスタイルを継承するワインと大胆でスケールが大きく「現代的」なサン・テミリオンのワインとの間には、隔たりがあります。
基準の違いはあるにせよ、全体的に見れば、サン・テミリオンのワインは、以前に比べ、より熟れた感じで、しっかりと醸造されたワインになったと言われています。
世界的な名声を誇る生産者
例えば、「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」格付けのオーゾンンヌ (Ausone)、シュヴァル・ブラン (Cheval Blanc)、アンジェリス (Angelus)、パヴィ (Pavie)を筆頭に、「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB」格付けのボーセジュール・ペコ (Beau-Sejour Becot)、カノン (Canon)、トロロン・モンド (Troplong Mondot)、ヴァランドロー (Valandraud)、カノン・ラ・ガフリエール (Canon-la-Gaffeliere)、フィジャック (Figeac)、ラ・モンドット (La Mondotte)、パヴィ・マカン (Pavie Macquin、トロットヴィエーユ (Trottevieille)、クロ・フルテ (Clos Fourtet)、ラルシ・デュカス (Larcis Ducae)、ラ・ガフリエール (La Gaffeliere)、ベレール・モナンジュ (Belair Monange)、ボーセジュール (Beausejour) が挙げられます。
また、テルトル・ロートブッフ (Tertre Roteboeuf)、ヴァランドロー (Valandraud)、ル・ドーム (Le Dome) など一部の小規模生産者は、ぶどう栽培と醸造に最先端技術を用い、より濃厚な色、完熟し豊かなスタイルのワインを創造しています。
生産量が極めて少なく、こだわり抜いて造られる稀少性から、「ガレージワイン」「ガレージスト」と呼ばれ、R. パーカー氏などが絶賛したことで人気が一層高まり、ワインは高値で取引されています。
土壌の違いとワインの品質
海洋性生物の化石、「ヒトデ石灰岩」 (Starfish Limestone) で構成される「台地」は、フィネスに溢れ、精妙なアロマが特徴の秀逸なワインを生産するカノン、クロ・フルテ、ペレール・モナンジュ、トロットヴィエーユがあります。
ローム質粘土の上に石灰岩の表土が覆う「台地の斜面」は、とりわけ南・南東向きの斜面がサン・テミリオンを代表する絶好区画であり、新鮮で秀逸なアロマ、豊富なタンニン、長期熟成に向く極上ワインを生産するオーゾンヌ、パヴィがあります。
珪質やシルト質の砂・ローム質の粘土で構成される「台地の麓」は、洗練された現代的なワインを造るカノン・ラ・ガフリエールがあります。
そして、古代第4期に造られた砂利層が広がる「北西部」は、骨格がしっかりとし、精妙なアロマと贅沢な味わいの極上ワインを生産するシュヴァル・ブラン、フィジャックがあります。
卓越した生産者一覧
・オーゾンヌ (Ausone)
「1980 年代半ばから、オーゾンヌは、ミスを犯したことがない。全てのヴィンテージが、その年生まれたワインの中で最高のものであると証明されている。オーゾンヌは若い時、無口で控えめで、判断に苦しむことがあるが、このワインには、年齢とは無縁の特性があり、新鮮さとエレガントさは不朽と呼べるほどである。」
・シュヴァル・ブラン (Cheval Blanc)
「このワインは、世界でただ一つの、一部がサン・テミリオン、一部がポムロール、そして、多分、それに一つまみのマルゴーが加わったワインである。これを際立たせているのが、テロワールとカベルネ・フランである。」
・テルトル・ロートブッフ (Tertre Roteboeuf)
「フランソワ・ミジャヴィルは、情熱家であるが、懐疑的、哲学的でもある。彼は 1 人で、シャトー・テルトル・ロートブッフを立ち上げた独立主義者である。ミジャヴィルは、『ここが素晴らしいテロワールだということは、パリジャンでもわかるだろう。しかしここは大変崩れやすい。』と熱く語る。」
・アンジェリュス (Angelus)
「アンジェリュスは、いろいろな意味で、現代サン・テミリオンのシンボルである。ついに 1996 年、努力が実を結び、プルミエール・グラン・クリュ・クラッセに選ばれた。それは、 1995 年にサン・テミリオンの格付けが始まって以来の、この格付けへの最初の昇格であった。」
・ボーセジュール・ベコ (Beau-Sejour Becot)
「シャトー・ボーセジュール・ベコは、サン・テミリオン台地シャトーの代表的存在である。そのワインは、台地ワインの特色である新鮮さと、味わいの長さ、しっかりした骨格を持ち、それが長熟の可能性を示唆している。」
・カノン (Canon)
「ヴェルテメール家とジョン・コラザの哲学は、テロワールによって勇気づけられ、ワインの中にエレガントさとフィネスをもたらしている。そして、少なくとも 2003 年から、それは定着している。」
・パヴィ (Pavie)
「ボルドーで一番評価が分かれるワインと人物があるとしたら、それは、きっとシャトー・パヴィとそのオーナーのジェラール・ペルスに違いない。パヴィの極限まで濃縮されたスタイルに喝采を送る人もいれば、落胆する人もいる。」
・トロロン・モンド (Troplong Mondot)
「2006 年に、シャトー・トロロン・モンドは、サン・テミリオン・プルミエール・グラン・クリュ・クラッセに昇格することができ、クリスティーヌ・ヴァレットは、長年の夢を実現することができた。その期間、彼女は、ワインの質とスタイルの革命を先導した。」
・ヴァランドロー (Valandraud)
「サン・テミリオンの年代記にテュヌヴァンのことが記されるのは間違いない。限られた資金で、可能な限り、極上のワインを造り出すという彼の野望は、彼の知らないうちに、ガレージワイン興隆の始まりを告げるものとなった。」
・カノン・ラ・ガフリエール (Canon-la-Gaffeliere)
「ぶどう畑の質と健康状態は、いまでもフォン・ネッベールの主要な関心事である。『私の願いは、生き生きしたぶどう畑にすることだ』と彼は宣言する。」
・ル・ドーム (Le Dome)
「ワイン造りは、現代的であるが、日々進化している。『われわれにとって意味があり、良いワインを造り出すことに役立つなら、喜んで最先端の科学技術を取り入れる』と彼は断言する。」
・ラ・モンドット (La Mondotte)
「ガレージ運動が衰退した後も、ラ・モンドットが数少ない堅実なブランドとして残っているという事実は、そのワインの質が本物であったことの証である。」
・パヴィ・マカン (Pavi Macquin)
「パヴィ・マカンのワインは、自然の力強さがあり、骨格がしっかりしている。そのため、フィネスを加えることが必要条件となっているが、これを達成するのが、果実の質と優しい果実の取り扱いである。」
・トロットヴィエーユ (Trottevieille)
「サン・テミリオンの町の東、石灰岩台地の上にぽつんと孤立して立つ宝石のように、美しいシャトーをひと目みただけで、誰もが、ここから素晴らしいワインが出来るに違いないと感じる。」
・クロ・フルテ (Clos Fourtet)
「これは投機のためのワインではなく、セラーで熟成させ、飲むためのワインである。そして今、ほぼ半世紀にわたって人が住んでいなかった邸館は、キュヴリエがパリからここに移り住む日の為に修復されている。」
・ラルシ・デュカッス (Larcis Ducasse)
「品質は毎年上昇しており、市場もそれに倣って上昇曲線を描いている。ぶどう畑を一目見れば、ラルシ・デュカッスが、語るべきものを持っていることがすぐ分かる。」